患者様が歯医者の治療を想像した時にまず一番最初に思い浮かぶのが虫歯治療ではないでしょうか。
虫歯がどういうものか理解されていますでしょうか?
甘いものを食べるとなるもので、歯に穴があくくらいのイメージでしょうか。
齲蝕(虫歯)というのは、食事をした後に残った食渣を栄養にして口腔内細菌が乳酸という酸を産生します。これによって、歯の表面のエナメル質が溶かされることによって始まります。
また噛み合わせによって、マイクロクラックと呼ばれる、ヒビが入りそこから口腔内細菌が侵入する こともあるとされています。
初めのうちは特に大きな症状はないため、それが気づかず放置されてしまうと、エナメル質の下の象牙質という層に波及し、その後は神経まで虫歯の菌が感染を起こしていきます。
いわゆるみなさんが見ている歯の白い部分がエナメル質といい、とても硬く、私どもがその歯を削る時はダイヤモンドを使うほどの強度を持っています。そのまさに歯にとって鎧のような組織が突破されると、その後の象牙質と言われるクッションのような比較的弱い組織に到達するため、 急激に齲蝕(虫歯)が進行してしまいます。
つまりいかに早い段階で細菌の侵入を食い止めるかが、歯を削る量を減らし、歯の質を悪くしないための肝だと言うことです。もちろん、神経を失わないことも歯の寿命を長くするため重要です。
基本的には上記のようにプラーク(口腔内細菌)中の虫歯菌(ミュータンス菌やラクトバチラス菌を中心とした)が食べ物から提供された糖と結合することで、酸を発生することで始まり、 エナメル質表面のミネラルを奪う、または溶かす脱灰と言われる現象から発生し、う窩と呼ばれる穴を開けることから始まります。
そこには、細菌だけではなく非機能的な力(必要以上に強い力)による物理的な破壊の要素もあります。
齲蝕(虫歯)というのは、時間、宿主、食生活が複合的に関連して発生すると言われています。
好んで食べる物や頻度などの食生活によりリスクが上がっていくところに対して、宿主の能力つまり、虫歯になることを防ぐとされる唾液の性質や、口腔内環境、歯みがきの頻度や方法、 レベルなどによって防御していき、その危険がどのくらいの時間起こっているかでその方のリスクが決まってきます。
当院ではその方個々の虫歯の発生リスク検査を実施しています。
削るなどして失われた歯の部分をなにで回復するのか、どのような環境で回復されるかが次の課題です。
一般的な保険診療では時間や道具、視野に制限があるために、効率よく治療するため比較的多くの歯を削り、神経が露出した場合は神経を除去し、その治療の終了後の修復時にはラバーダムなどはされず、 接着作業をするための十分な封鎖が得られないために、再発予防のために十分な接着の強さは得られないのです。では、齲蝕治療(虫歯治療)が正しく行われるためにはどのようなことが考慮されるべきでしょうか?
つまり、歯の破壊の初期段階である虫歯の時にどのような治療を受けるかがその後の歯の運命を決めてしまうということです。 そのような分かれ道でどちらを選ぶかが重要です。
1小さい虫歯をどのように削り、どのように回復するか
2ある程度の大きさになった虫歯で神経がわずかに露出した場合に神経保存の治療を受けるか、
神経保存を考慮せず神経をとってしまうか
3すでにある程度の歯を失ってしまった場合にどのように削り、どのような材料で回復するか
確実に行われたセラミックスの治療を選ぶのか、そうではないのか
4歯の神経を取らなければいけなくなった場合にどのようなレベルの根管治療を受けるのか
5不必要に歯を削ることがないようにするかどうか、
例えば歯を失った場合にインプラントを選び周囲の歯を削ることを避けるかどうかなど
いくつかの例ですが、このような場面が歯の寿命を決めてしまう分かれ道の代表と言えます。
※ここでは虫歯の分野に絞って代表的な場面を提示しています。
1.小さい虫歯をどのように削り、
どのように回復するか
歯と歯の間に黒く見えるのが虫歯です。この場合歯の剛性を失わないためには、上から削ってしまってはいけません。
そのため、横からアプローチすることで、歯の大事な部分を削らず剛性を保つことができます。
そのためには、ラバーダム防湿をし、小さい道具で横から削り確実に詰め物をする必要があります。このような治療をするには、それなりの道具と充分な時間が必要になります。
ラバーダム防湿をし、横から虫歯の部分のみをマイクロスコープとルーペを使用した拡大視野下で虫歯をとった状態の写真です。裸眼や通常の道具では余計に大きく削ってしまう可能性が高くなりますので歯科医師は必ず拡大した状態で治療を行う必要があると考えます。
またラバーダムがあることで唇や舌、唾液などが入って来ない環境を確保できます。
横から材料を流すことで失われた部分を回復しました。可能な限り削る量は最小限にし、歯を失わず、ラバーダム防湿下で接着不良を起さずに確実に埋めて行きます。
このような治療は決して治療内容としては特別なものではなく、コンポジットレジン修復(ダイレクトボンディング)と言われるものです。 ※ダイレクトボンディングについては下記を参照下さい。
しかし、保険診療の場合はこのようなことをするだけの時間や道具の費用を賄えないので、行うことが難しくなっています。
保険診療の場合には歯と歯の間が虫歯になった場合には、写真のように歯と歯の間の部分の歯を削り落とすことが一般的で、その後はもちろんう蝕(虫歯)の大きさによりますが、 ある程度の大きさになった場合は、金属で補うことになることが多いため上記のように歯の半分くらいを削ることになります。金属は歯に接着することはありませんので、ある程度大きく削り歯に機械的に引っ掛ける必要があるためです。これを接着ではなく、合着と言います。
このようにするのは、効率的に診療をすすめることが必要だからです。
あくまで公的な制度であるため、効率的にできるだけ簡便に治療をすすめることが重視されているシステムだからであると言えるかも知れません。
しかし、歯科医学に照らし合わせてみると、
このようなことを避けるためには、小さな虫歯のうちにできるだけ小さく削り、適切に回復することが重要です。
提示したケースの場合は
などの圧倒的なメリットがあります。
小さい虫歯に対して行われる治療で特にヨーロッパを中心に最もポピュラーな治療方法がBonded restrationと言われる手法の中のDirect Bondingです。
Bonded restrationとは接着修復を意味し、セラミックスやコンポジットレジンを歯に正確に接着することにより、もともとあった歯の形や剛性を回復する治療方法です。
そのうちのセラミックスではなくコンポジットレジンを使用して行う治療方法をDirect Bondingと呼びます。この方法は必要以上に歯を削らず、最も歯を削らない方法です。Minimum Invationと言い、必要な部分以外の歯を全く削らずに、コンポジットレジンと呼ばれる方法にて虫歯で空いた穴を塞ぎもともとあったように治す方法です。
この虫歯を削り、詰め物をするという方法自体は決して珍しい方法ではなく、我が国でも保険診療の適応で行われています。しかし、保険診療には時間的な評価はなく十分に時間をかけて行うことができないため、いわゆるヨーロッパなどで行われているDirect Bondingというようなレベルでは行われておりません。一般の方が見ても明らかにレベルの違いがわかる程です。
ラバーダム防湿をし、正しい接着方法と材料などを用いて、十分な時間を取り、行って行くとこのような結果に導くことができます。
※色や形などは難易度が患者様ごとに違い完全に再現できない場合や
また、虫歯が大きい場合はこの方法が適さない場合もありますご相談下さい。
1ラバーダム防湿をしていない。
このようなセラミックス治療やコンポジットレジンによる治療は歯にどれだけ正確に接着剤で接着させるかが命です。そのため余計な呼気や唾液は排除しなければならないため、根管治療同様ラバーダム防湿が必須です。水に濡れているところにセロテープを貼ることを想像してみて下さい。誰にでも結果は想像できますね。虫歯が早い段階で再発するのはこのためです。
2時間制限があるため、十分に形を作れない。
歯の形は意味があってその形をしています。歯の形に回復されていない治療は、治療目的を果たせていないことになります。咀嚼能率などが下がり、他の歯の寿命を短くしてしまったり、消化に悪影響すら及ぼします。
3行う歯科医師自体の知識やセンスなど技術が不足している。
などが主な問題点です。
★ のところがいわゆる我が国の保険診療で行われたであろうコンポジットレジンです。歯の形をしていないのは一般の方でもわかると思います。また時間が立っているということもありますが、ラバーダムなどが行われていないため、接着不良で詰め物と歯の間がはっきりわかるくらい汚れが侵入してきてしまっています。
2.ある程度の大きさになった虫歯で神経がわずかに露出した場合に神経保存の治療を受けるか、
神経保存を考慮せず神経をとってしまうか
他院より神経を取る必要があるかもしれない虫歯のため神経保存や適切な根管治療が可能な歯科医院で治療をした方が良いとのことで紹介された患者様です。
第一小臼歯の虫歯が神経まで達する虫歯でしたので、保存の可否を考慮し、今回は患者様の年齢が若かったため神経保存を行いその後最小限に削られた部分に対して、ダイレクトボンディングという治療を行いました。
そのため、
などができました。
この場面で一般的な保険診療の場合、神経をとり、神経をとった歯のため大きく削って金属をかぶせることが多いです。そのため歯の剛性は大きく失われ、 その後に歯のヒビや割れが起こる可能性や虫歯の再発のリスクが高まります。
※従来の方法では、神経をとった歯は大きく歯を削りかぶせることが良いとされています。保険診療は基本的にその考えにそってルールが決められています。
3.すでにある程度の歯質(歯の一部)を失ってしまった場合にどのように削り、どのような材料で回復するか
確実に行われたセラミックスの治療を選ぶのか、そうではないのか
術 前
術直後
術 後
こちらで提示しているケースは、顎の右下の3本を治療しているものです。
写真で見ると、左から3本について、治療を行ったものです。1番左と左から3番目に対しては ダイレクトボンディングという治療を行っています。
こちらの選択理由は歯の削る量を最小限にするためと確実な接着によって虫歯の再発を最小限に 抑えることにあります。
左から2番目の歯に関してはセラミックスにて治療を行っています。
患者様がよく気にされる知りたいというように思われることは、ダイレクトボンディングという方法で治療を行えないのかということです。
削る量を最小限にすることは基本的な事項ですので、可及的に削る量を減らすことは常に考えています。しかし、ある程度虫歯で削らなくてはいけない、もしくは、すでに以前の治療で削られている場合などで、歯の量が減ってしまっている場合はダイレクトボンディングで行うことで、 削る量は少なくできるかも知れないですが、歯自体の強度を回復できないと判断された場合には、 セラミックス治療を選択します。この選択に関しては、多くのことを適切に判断し、選択して参ります。
また、セラミックス治療を行う場合、特に装着時には写真のように可能な限りラバーダムを行って、治療を行うことが非常に大事です。
ラバーダムが行われないことで、セラミックス治療の後に歯がしみてしまうということを一般的によく聞かれます。これは接着不良や細菌感染が疑われる場合があります。
4.歯の神経を取らなければいけなくなった場合にどのようなレベルの根管治療を受けるのか
こちらに関しては当HPの根管治療の項目に詳しく解説していますので参考になさって下さい。 歯の神経を失うと起こる歯の変化を考えれば、最善の選択をしないことは、必然的に歯を失う原因となります。
1血管、神経が通わなくなるため、感覚の弱体化が起こる。
神経の感覚が弱くなるのですが、具体的には以下のような問題が起こります。
歯を噛み合せた時に、感覚で硬いものなのか、柔らかいものなのかわかると思います。 それは歯根膜という歯の周りにある神経(歯髄)によって、感じています。
つまり歯の周りには2つの神経があることになります。
そのうちの歯髄を失うと、力に対する感覚が弱くなり、歯髄のあった時に比べると、 2倍近くの力をかけて同じというに感じると言われています。
そのため、本来より強い力が歯にかかり、歯のヒビや破折(割れること)につながってしまうのです。
歯髄をとってしまった事自体は起こってしまったことであれば、その先に起こるヒビや破折を予防するために、これ以上の無駄な切削(歯を削る)を避け、強化するような材料の使用やその後のかぶせもので強度を高める、もしくは、歯周病治療を併用して環境を強化することなどが必須であると言えます。
2神経を取る時に内部の歯質(歯の一部)を削り落として汚れを取らざるを得ないため、
物理的に歯の厚みが減り強度が下がるため、ヒビや破折の原因になる。
3歯髄を失うことで、虫歯などによる痛みを感じにくくなるため、その後の虫歯に気づきにくくなる
4歯に免疫機能がなくなるため、虫歯の菌に対して抵抗する術がなくなってしまうる
などが挙げられます。
5.不必要に歯を削ることがないようにするかどうか、
例えば歯を失った場合にインプラントを選び周囲の歯を削ることを避けるかどうかなど
歯を失わないようにすることを徹底するのが歯科医学の基本です。
予防を徹底し、虫歯、歯周病になってしまった場合は、できるだけ早い段階で最善の治療を行うことでその後の被害を最小限にします。
その概念は歯を失った後どのように治療するかも同じです。
歯を失ってしまった後、その部分をどのように回復するのかということで、その後の口腔内の運命は大きく変わってしまいます。
歯を2本失った場合に、インプラントを選択したケースをご紹介いたします。
このケースをブリッジで回復した時との違いを考察します。
インプラントの場合
ブリッジの場合
ブリッジとは、歯を失ってしまった部分を自分の歯を土台にして、橋渡しして補う方法です。
自費診療・自由診療で行われるブリッジ
保険診療のブリッジ
インプラントはあごの骨でしっかりと支えられています。そのため、自然の歯とほぼ同程度の力で噛むことができ、痛みもありません。
入れ歯のように、取り外す必要もなく、自分の歯のように使用することが可能です。人工物であるため虫歯になりません。
インプラント治療を応用する一番の目的は天然歯を失う以前と同じように咬むことができ、しっかりと咬む力を受け止められるところにあります。
このことは周囲の歯を守ることにもつながるため、歯周病治療を行って保存した歯の周りに積極的に応用されます。
インプラント
骨にしっかり固定されるため痛みもなく、しっかり噛める。
入れ歯
歯茎が圧迫されることで、
痛みが出やすい。
噛む力にも限界がある。
欠損補綴(歯をいれる方法)にはブリッジと入れ歯とインプラントがあります。前述のとおり、ブリッジは周囲の歯を大きく削ることによって、失われた部分を補うため、歯を削ること自体の問題や範囲が大きくなれば、難易度が急激に高まります。
入れ歯はその機構上、多くのことを考慮しなければ、残存歯(残っている歯)への影響は避けることができません。
インプラントは行う時期、適応する場所、適切な設計を慎重に診査診断する必要はありますが、適切に使用されれば、周囲の歯にかかる力を軽減し、顎の安定、咬み合わせの安定など、顎全体もしくは、お口全体という視野でとらえた時多くの目的を達成することが可能になります。
現在、唯一、他の歯に負担をかけずに歯を入れることができる手段です。
また、これまでにあった、歯科医師、患者様双方の悩みを解決しえる手段であると言えるでしょう。
その他にも下記のような多くの応用の方法があります。
欠損部にインプラントを応用することによって、取り外し式の入れ歯からの回避、かみ合わせの安定確保、修復・補綴治療に伴う天然歯を削る行為の回避、咀嚼効率の向上や審美的な改善、歯周病の再発防止が得られます。適応されるケースもしくは効果を最大限発揮する例を見ていきましょう。
EX-1一本歯を失ってしまった、もしくは抜かなくてはいけないと言われてしまった。
しかし、隣の歯を2本削るのには抵抗がある・・・
Bridge
左右の歯を削って
ブリッジを
装着した状態。
Implant
インプラント1本
埋入された状態。
左右の歯の削ることを
避けることができます。
非常に多いケースですが、この場合には
① 左右の歯が天然歯のままか、すでにかぶせものや根の治療がされている歯かということ。
② 全体的に歯周病の状態がどうであるか、特にインプラントを選択する場合周囲の状況。
③ 患者様の年齢
などを十分考慮したうえでメリットが大きい場合インプラントを選択することが推奨されます。
EX-2奥歯を失ってしまった、入れ歯に違和感があったり、食べづらいため、しゃべりづらいのでなど
たびたび外してしまう。入れ歯を入れなくても食べるのに不自由しないから入れてない・・・
こちらもよくあるケースです。下図のように特に後ろの歯2本を失っただけでは、食事をすることにはほとんど不自由しません。歯がないからといって、すぐには痛くなるなども起きません。
しかし、このことこそが、歯を失わせる大きな原因になってしまいます。
落ち着いて考えていただければ、大変簡単なことなのですが、歯は顎を支えています。特に奥歯は顎を支えることと、咀嚼をするために絶対になくてはならない歯です。
下図のように右下の歯を失い、もし入れ歯を普段から外したり、入れなかったりしたら、左の奥歯など残っている歯に大きな負担がかかることは必然です。
さらに反対の顎の歯(右上の歯)があるとしたら、相手を失ってしまうために位置が変わってしまい、さらに崩壊が進んでいきます。
つまり、失ったところには、基本的には必ず歯を入れる必要があります。そのため、下図のような場合、入れ歯が何かしらの理由で入れられない場合はインプラント治療を行う必要があります。
EX-3入れ歯に違和感があったり、食べづらい、しゃべりづらい、安定させたいなど困っている・・・
重度の歯周病などで歯を失ってしまうと、歯を支える土台になる骨をほとんど失ってしまった状態で総入れ歯を作ることになります。
そのため、安定しづらかったり、しゃべりづらい、食べづらいということが起きてきます。
これは、歯を失ったことで、顎の位置が安定しなくなり、舌の動きが退化し、歯がないために咀嚼リズムを作るための刺激が送られにくくなってしまうことも関わっています。
必ずしも、歯科医師の技術の問題だけで、解決できない場面が多く存在します。
そのため、このような場合咬める入れ歯を作るためには顎の位置取りから本格的に作る必要があります。その場面で場合によってはインプラントを使用して安定させるもしくは、すべてインプラントにするなどの方法をとることが可能になってきています。
そのため、入れ歯でお困りの場合はインプラント治療を行うことを検討してみるのも良いかと思います。
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